こしあん日記(Koshiahh’s Diary)

MURABANKU。の土屋慈人の日常系

陰キャでなにが悪い(01.12)

もっとも人間力の試される時間、それは──

 

バイトの暇な時間。

 

前のバイトは共通の趣味を持ったある種選ばれし者共の集う不思議アンテナショップだったために、自然と気の合う人もいて苦戦することがなかった。


しかし、現在のチェーン店でのバイトは、話どころか言語すら違う、まるで別の世界のような場所なのだ。平然を装っているが、逆算してできるだけ接触のしないような立ち回りを心がける。しかし、一番逃げ場がなくなるのが、暇な時間である。

 

今日、木曜日はまだ話せる人が多い曜日で平和であった。
割と話せるほうのギャルママの主婦さんと今日はとてつもなく寒いですね、なんてBボタンを長押しするような会話をした。
すると「もうさ、寒すぎて休憩中にわざわざ丸源まで行ってラーメン食べてきたわ」と。

丸源でラーメン!?ちょっと待て。

 

 

仲良くなれそう・・・!!

 

 

 

高校の部活の帰り道によく丸源へ行った。
還暦を過ぎた歳の顧問であったため、夏休みは野球部と同等レベルで日程を抑えられ、まさに老後の楽しみを我々は演出する形で部活に励まざるを得ない日々を過ごしていた。


私はバレーを好きになることはなかった。早く帰ってギターかゲームかアニメを観たい。
典型的な帰宅部精神を持ち合わしているのだが、見事に調教され、好きでもないバレーに高校生活の時間を費やしていたのだ。

 

高速の下の41号線を直列になって自転車を漕ぐ。
ヘルメットをかごに置き、なけなしのお小遣いで食べる丸源ラーメンは本当に美味しかった。
あの地獄の日々さえ美化してくれる、それが「丸源ラーメン」なのである。

「僕、地元が愛知で高校の時に良く行ってたんすよ」と言うと。
「え?まじ?うち岐阜出身だよ。え、てか、岐阜タンメンの近くの!?」

 

 

岐阜タンメン・・・・・・・!!!!!!!!

 

 

 

大学の頃、同じ41号線にある映画館でバイトをしていた。
レイトショーのある映画館であったため、退勤後にやっているお店はほとんどない。
そんな深夜の路頭に迷いし腹ペコ学生を掬ってくれる、それが「岐阜タンメン」なのである。

 

「そうす!!大学の頃によく行ってましたよ」
「え、じゃあナガスパナガシマスパーランドという遊園地)もよく行った?」
「あぁ~、修学旅行くらいですかねえ」
「え、そんだけ!?どこに遊びに行ってたん?」
「んん~、基本部屋っすかね~」
「あぁー・・・・。


陰キャなん?」


「はい、陰キャっす☆」

ウケる、とママさんは視線をそらして笑った。
お気づきだろうか、徐々に話のスケールがミニマムになっていったのを。

 

①共通項であるラーメン屋
②同郷あるある
③有名な遊園地
④己の部屋

 

④己の部屋!!!???
いや、もっとあっただろうよ「大須商店街」とかめちゃ行ってたじゃないの。
なぜに「部屋」をチョイスしたんだ。いや、すぐ思い出される風景はあの遮光カーテンに守られた紛ごうことなき「部屋」だけども。

 

どこに遊びに行ってたか、という問いのアンサーに突然現れる「本人」。
そりゃ「あぁー・・・・」と驚き、言葉を探すでしょうよ。

 

しかし「はい、陰キャです☆」と「☆」をつけたことによって功を奏し、会話自体が暗くなることは阻止できた。
なんで、大学卒業のタイミングでこっちに来たのかという質問に素直に音楽をやっていることを話した。
すると「あ~ね。普段は陰キャだけど、いざ音楽とかになるといきなり本領発揮するタイプだ」と。
そんな感じがするわと皿を手にしてママさんは業務へと姿を消した。

 

 

大学の頃に、一回だけゼミの飲み会に参加した。
ゼミの教授とは仲が良かったのだが、同級生とはお互いに単位のための首の皮一枚の関係であった。


帰宅後、ほかのゼミのゲーム仲間とスプラ2をプレイしてると「あれ?ちかと、Mのストーリーズに上がってるんだけど」とURLが送られてきた。
開いてみると、その飲み会で乾杯している動画が流れている。
そして、綺麗な中心揃いの明朝体で「陰キャとKPなう」と一行。

 

いや、おれやん!!!!!!!

 

初めて公式にラベリングされた瞬間である。
陽キャへの憧れや、そもそも陰キャ陽キャどっちなど毛頭興味はないが、世間からは「陰キャ」と認定されるんだな、ということが去年を通してはっきりと分かった。
それゆえの「☆」の余裕館ですぜ。あぁ、そうとも。この陰の大きな器で君を受け入れよう。ようこそ──。

 

 

去年、川沿いのベンチにて、そんな話を参加したRECで現場をご一緒できた岡田崇さんと話していた。
すると岡田さんは笑ってくれて嬉しかった。緊張が少し解れたのか流れる川の音が聞こえはじめ風景を眺めていると「われわれのような人間はみんな陰キャだよ」と岡田さんの低音が私の身体に響いた。
よしゃ!笑ってくれたぞとそれだけでも嬉しかったのだが、まさに自分が大学の時に音楽を掘る中で岡田さんのお名前はいつも手元のページにあったため、さらに嬉しかった。


陰キャでなにが悪いである。

 

一人の部屋こそ、魅惑の島にたどり着ける。私は今でもその感覚を信頼している。
そして、その島でぐうぜん会えた人との会話が私は無性に好きだ。